遠心力が強すぎて

遠心力が強すぎて

はつおい歯科室 べいちょうです。

先日、妻に昔話をしたら爆笑してくれたので、ここでも話題にしてみようと思います。

本来、リーダーには人を惹きつける「求心力」が求められますよね。 ですが、私の古巣の院長は、どうやら**「遠心力」**が強すぎたようです。 周りの人が、どんどん外へ外へと吹き飛ばされていくのですから(笑)。

これは私の古巣のお話です。 度々ネタにしてしまって多少心が痛むものの、しかし「反面教師」というのは強烈な成長の糧になりますし、その分析は偉大な教材でもあります。

成長に欠かせない要素は、大きく二つ。 「成功」と「失敗」です。

優秀な外科医を調査した、ある研究の話を聞いたことがあります。 彼らは、自分の成功した症例をノートにまとめる一方で、**「同僚の失敗した症例」**もしっかりとノートにまとめていたそうです。

経営となるとなかなか失敗は許されません。致命傷を受けて立てなくなるわけにもいきません。 怖い話ではありますが、身近に強烈な反面教師がいるというのは、ある種、大変な学びの場になる訳です。

…と、言い訳はこれくらいにして。

以前にも少し書きましたが、私が入社する以前から、その医院には「兆候」がたくさんありました。

  • 内定をもらった時に居た人が、入社時には何人かいなくなっている。
  • 勤務中に号泣しているスタッフがいる。
  • 入社後1ヶ月で同期が音信不通になる。
  • 先輩が辞めることが決まったと教えて貰う。

入社1年目のゴールデンウィーク時点でこれだけのニュースがありましたから、それはもうドラマの尽きない医院でした。 単純に言えば、ブラック企業です。

ただ、医療の現場というのは厄介です。 ブラックだから練習しなくていい、とはなりません。技術不足は即、患者さんへの不利益につながるからです。

私が研修医の頃の話です。 患者さんが重なって大忙しの中、歯の神経をとる「抜髄」という処置が必要になりました。

指導医:「お前できるか?」 私:「はい!」 (周囲が「え?」という顔をする) 指導医:「…やった事があるのか?」 私:「いいえ!」

そのあと、私は治療をさせてもらいました。 なぜやらせてもらえたのかと言えば、私が毎日遅くまで診療室で練習しているのを指導医が知っていたからです。

口腔外科に行って抜去歯を貰って練習をし、毎月自腹で模型の歯を何万円も買い込んで削り倒し、警備員さんに「そろそろ良いですか…?」と追い出されるまで練習をしていました。

朝は7時から9時まで。 昼は13時から14時半まで。 夜は20時から23時まで。ほとんど毎日。

だから歯科医師は良いのです。 自分の為に成る事が多すぎて、どこまでが仕事でどこからが自分の為か、判別なんてできません。 これを「残業代」と請求などされたら、場所や材料を提供している経営者はたまったものではないでしょう。「残業」と宣う人は、職人仕事である歯科医師には向いていないのかもしれません。

しかし、スタッフ(歯科衛生士や助手・受付)の場合は話が別です。

どこからどう見てもブラックな職場に、将来はありません。 仕事内容も時間もどんどん増えて、自分の時間を侵食されて、見返りは「承認」だけ。

「他の歯科医院へ行けば役に立つ」と思われるかもしれませんが、実はそうとも限りません。 歯科医院は院長が違えば全てが違います。器具も、消毒も、予約の取り方も。他所の医院へ行って「前の医院では~」なんて言えば、「鼻につく」と邪険にされかねません。 スタッフにとって、その医院独自のルールに滅私奉公することは、必ずしもキャリアの蓄積にはならないのです。

しかし当時の医院では、「患者様の為」という言葉ですべてを丸っと包み込み、何か起きれば「君のせいで」と個人の責任に落とし込んでいました。

  • 会議も「患者様の為」に行われる個人的な活動なので、無給。
  • 毎週の症例検討会も、出勤前の個人的な活動なので、無給。
  • 終礼の後には退勤カードを印字して、戻って仕事を再開するのが常識。

その後帰宅して、医院のブログを書いたり、ポスターを作ったり。 まさにバブル期のCM、「24時間働けますか?」の世界です。

そんな中、院長は「娘と買い物に行った」とか「〇〇へ出かけた」と、臆面もなく楽しそうに話すのです。 給料日前には3食おにぎりで凌いでいるスタッフの横で、「デパートで買い物をして~」と話すのですから、ある意味すごいメンタルです。(しかも、ニコニコ聞いてあげないと怒りだすのです 笑)

と、そんな話を妻としていたのです。 私には偉大な反面教師がいると。 「あの院長は、遠心力が強すぎたんだ」と。

妻は、当時の私を心配してくれていましたし、異常な職場であることを私に理解させようと奮闘していましたから、この例え話に爆笑してくれました。

笑い話にできるようになったのは良いですが、 ミイラ取りがミイラにならないよう、私も気を引き締めないといけませんね。

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