
むし歯についてのあれやこれや
むし歯って?
口の中に住んでいる細菌が歯を溶かしてしまう病気です。
細菌は砂糖を摂取して住処(プラーク)を作り出します。プラークの中で多種多量の細菌が生活して酸を作り出します。プラーク中で酸が生成されると、薄められることが無く歯に直接、長時間作用してしまいます。
歯は酸に晒されることで溶けて、構造が壊れてしまいます。初めは白くなり、やがて茶色や黒になり、内部が徐々に溶かされた後で洞窟が崩落するように「穴が開いた」状態になります。
むし歯予防
むし歯の予防方法は、何を隠そう歯ブラシです!
そんな事、みんな知ってますよね。それでもむし歯になってしまうのはなぜでしょう?

Keyesという先生はむし歯の原因をの三つの要因から成り立つと考えました。
「細菌」:種類やバランス、菌数の要因
「砂糖」:摂取する砂糖の量や頻度、種類の要因
「宿主」:歯の持ち主である人の固有の要因(歯の状態や歯並び、治療の数や全身疾患など)
この三つで悪い要素が揃うとむし歯になる。という説明がされました。
後にNewbrun先生はここに「時間」という要素をつけ足しました。『むし歯の3要素「細菌」「砂糖」「宿主」が揃った時間の長さがむし歯を形成する』としたのです。
つまり、100%の歯磨きを1日1回よりも、80%の歯磨きを1日2回、60%の歯磨きを1日3回などの方がむし歯予防には効果的な可能性があります。
加えて、フッ素の重要性が注目されています。フッ素は歯を強くする作用でむし歯を予防します。しかもフッ素はプラークに浸透する事で継続的に低濃度で作用して効果を発揮する事が分かってきました。歯磨きがなかなか出来ない学童期や手が上手く動かない高齢期だけでなく、いまや全年齢が忙しくてフッ素応用の対象と言えるのではないでしょうか。高濃度フッ素配合の歯磨き粉とフッ素洗口液の利用をお勧めしています。※保険適応には年齢などの制限があります。
特に高齢者については、歯ブラシよりもフッ素の利用の方が効果的であるという研究まであります!

むし歯治療
むし歯の治療は深さや大きさによって違います。
難しい説明は抜きにして簡単に説明をしていきます。…とはいえ難しいのですが。。
【神経までは届いていない】むし歯
酸で軟化された歯質を除去します。分かりやすく軟化した部分や色がついて感染している部分を取り除いた後は、う蝕検知液を使用します。むし歯になった部分を綺麗に取り除いていきます。取り除いた象牙質の範囲に応じて、表面のエナメル質を除去していきます。(歯が割れてしまうのを防ぐためです。)
最終的な治療法は、むし歯の場所と大きさを考慮して決定します。
範囲が小さい場合 〔CR〕と呼ばれる材料で充填して完了です。
範囲が大きい場合 型取りをして〔インレー〕や〔クラウン〕と呼ばれる材料を製作して接着します。
歯と歯の接触やかみ合わせを回復したい場合に〔インレー〕という修復物を利用します。
範囲が広く全周にわたる場合には〔クラウン〕という補綴物を利用します。
修復物や補綴物の決定はむし歯の範囲だけでは決まりません。装着後に外れない設計や、後で書けたりしない設計が必要で、そのために歯を削る必要もあります。
【神経に影響を与えている】むし歯
軟化した歯質が神経に触れていない場合と触れていた場合で方法が変わります。
軟化した歯質が神経に触れていないけれど治療の過程で神経に触れた場合 歯の中心には歯髄と呼ばれる、いわゆる「歯の神経」があります。この場合には歯髄は元気な場合もあり、歯髄温存療法が可能な場合があります。その場合には歯髄切断や歯髄覆罩をして歯髄を温存します。その後は〔CR〕 〔インレー〕 〔クラウン〕を範囲に応じて使用します。
軟化した歯質が神経に触れている場合 歯髄を除去する抜髄が必要になります。歯の神経を除去してその空洞を埋める根管治療です。根管治療の後は直接〔CR〕 〔インレー〕あるいは〔コア〕を製作後に〔クラウン〕を装着します。
すでに神経の処置がされていた場合
この場合には感染根管治療を行った後で直接〔CR〕 〔インレー〕あるいは〔コア〕を装着後に〔クラウン〕を装着します。
治し方の種類
CR(詰め物)
むし歯を除去後に直接接着して完了します。1日で完結できて歯を削る量が少ないのが特徴です。反面、接触と咬合の回復、強度についてはインレーに劣ります。
主に前歯と小さなむし歯の治療で真価を発揮します。
インレー(詰め物)
むし歯を除去した後で成形して型取りをします。【隣り合った歯との接触】【上下の噛み合わせ】の回復に優れています。反面、歯を削る量が少し増えますが、CRに比べて摩耗が少なく、長期的なメリットがあります。
クラウン(被せ物)
むし歯の範囲が広い場合に選択されます。
大きく広い範囲のむし歯の場合、インレーでは接着力が確保できずに、外れてしまう場合があります。また歯を残すとしても薄い場合には歯が割れてしまう為、削って覆う事で保護する事も可能となります。歯の全周を覆う事が出来るクラウンは、削る量が多い反面、全体をカバーできるため、むし歯になりにくいというメリットもあります。一方で、全周を覆うためにむし歯になった際には見つけにくく、むし歯の進行を許してしまうというデメリットもあります。
コア
根管治療後、歯を強化する為に軸を挿入しつつ、クラウンが接着する為の表面積を確保する事が求められます。
Q&A

質問:むし歯予防で一番効果的なのは?
回答:「甘いものを食べない」ことです!
そんな、元も子もない。という話ですが本当です。むし歯のない民族をむし歯にするという、ちょっと怖い研究があります。「良い菌/悪い菌が住んでいる」「歯が強い/弱い」などと説明されてきたむし歯ですが、代々むし歯のない人々をむし歯にするのは実は簡単で、砂糖を摂取する事でした。もう少し詳しく言えば、未加工の肉・魚・野菜と果物で生活する人に“文明的な食事”つまり加工食品を2週間与える事でした。
食習慣がむし歯を作る。これはどうしても見つめなおさなくてはいけないですね。柔らかく小麦粉と砂糖で加工された飲食品はむし歯を作るだけでなく、顎の発達を促せずに歯並びが悪くなりやすいと言われています。現代の子はこれに加えてマスク、表情の乏しさやコミュニケーション的貧困が見えてきます。むし歯は文明病なのかも?

質問:むし歯は、自然に治ったりする・・・?
回答:残念ながら、基本的には治りません。特に「歯に穴が開いてしまった」「黒く見える」といった状態まで進行したむし歯は、決して元通りにはなりません。基本的には進行していく一方の病気ですので、早めに歯科医院で診てもらいましょう。
ただし、本当に初期の「歯の表面が白濁している」という状態であれば、適切なフッ素やカルシウムの活用、そして特殊な予防処置によって回復(再石灰化)が見込める場合もあります。 しかし「自己判断は危険」です。進行の速いむし歯でも、表面だけが白く見えているケースが多々あります。少しでも違和感があれば、やはり一度プロの目で診てもらいましょう。

質問:むし歯予防のために、おやつは禁止ですよね?
回答:これは、何とも答えにくい質問ですね!!「絶対に食べてはダメ!」と禁止されると、余計に食べたくなるのが人間の心理というものです。そして、私は甘いものが大好きです…。
ただ!これだけは守ってください。「だらだら食べ」はやめましょう。 時間をかけてゆっくり食べる事で、むし歯は圧倒的に進行しやすくなります。砂糖が継続的に供給される環境は、むし歯菌にとってのボーナスタイムです。「よっしゃ!ゆっくり長く、たくさん歯を溶かせるぜ!!」と菌が元気になってしまいます。「甘いものは時間を決めてサッと食べる」「食べた後にはすぐにお口をゆすぐ、またはお茶や水を飲む」「歯に長くへばりつくチョコとグミは特に気を付ける!!」 これを意識するだけでも、お口の環境は大きく変わります。

質問:スポーツドリンクや野菜ジュースは甘くても大丈夫ですよね!
回答:残念ながら、むし歯予防の観点から言うと危険です。特にお子さんに「暑い日の水分補給だから」「普段野菜を食べないから」と、良かれと思って飲ませてあげる親御さんは少なくありません。 しかし、一般的なスポーツドリンク500mlには角砂糖8~9個分、野菜ジュース200mlには角砂糖3~5個分もの糖分が含まれています。また市販の飲料は、品質保持のためにpH(酸性度)が低く設定されています。概ねpH4程度と言われており、これは歯を溶かすには十分すぎるほどの強い酸性です。
もちろん、真夏の炎天下や発熱時など、命に関わる「熱中症対策」が最優先されるべき場面はあります。しかし、あくまで「日常的な水分補給」や「むし歯予防」について言えば、このような厳しい回答になってしまいます。
小話(?)をひとつ
私が勤務医だった頃の事です。ご自身での通院やケアが難しく、お母様が付きっ切りでサポートされていたある男性の患者さんでした。 私よりも年上の患者さんと、彼のお母様。お母様は、彼が小さな頃から歯には人一倍気をつかっていました。「甘いものは食べさせない」「毎日の歯磨きを頑張る」と、本当に一生懸命にお口の健康を守ってくださっていました。 しかしある日、彼は突然、お口の中に大量のむし歯を作って来院されました。 お母様はうつむきながら、「はじめて、スポーツドリンクをあげてしまったんです…」と。 日常の習慣(こだわり)を変えるのが難しい特性を持っていた彼。その日を境に、甘いスポーツドリンクしか飲まなくなったそうです。「無いとパニックを起こすから…」と。 「たまにはちょっと、美味しいものを」 「喜ばせてあげよう」 そんな優しい気持ちのひとしずくが、結果的に全部の歯にむし歯をつくってしまいました。 ある動物実験のニュースで、「砂糖には強い依存性がある」と話題になったこともあります。私たちは現代社会において、非常に手軽にこの「砂糖」を手にすることができます。だからこそ、その付き合い方を今一度見直さなくてはいけないのかもしれません。
質問:毎日頑張って磨いているのに、子どもがすぐにむし歯になってしまいます。なぜですか?
回答:お母様やお父様が一生懸命仕上げ磨きをしてくれているのに、むし歯ができてしまう。とてもショックですよね。これには、いくつか見落としがちな原因が考えられます。
① 甘いもの習慣: 甘いものはやはりむし歯を作ってしまいます。特にチョコレートやグミです。歯の溝にへばりついてなかなか取れないため、リスクが跳ね上がります。
② お口ぽかん(口呼吸): 実は、歯は乾燥にとても弱いです。口呼吸や「お口ぽかん」の癖で口の中が乾燥すると、歯の表面のエナメル質がもろくなり、むし歯ができやすい状態になってしまいます。加えて、本来歯を守ってくれるはずの「唾液の抗菌成分」が行き渡らなくなります。《歯へのダメージ》+《むし歯菌が元気に》というダブルパンチになってしまいます。
③ 歯磨きのタイミングと薬効: 歯磨きが最も効果的なタイミングは、「夜、寝る前」です。そして大切なのは、磨いた後は絶対に何も食べない事。 また、年齢に合わせてフッ素入りの歯磨き粉を使い、うがいを控えるか、少量の水で1回だけ軽くゆすいで「お薬の成分をお口に残す」のがポイントです。朝は忙しいと思いますが、夜の間にばい菌が繁殖して最盛期を迎えています。朝食後の歯磨きやフッ素洗口も非常に効果的です。
④ 盲点「〇〇習慣」: 全身の健康のために良かれと思って続けている習慣はありませんか?実はお口にとって過酷な環境を作っているケースがあります。 スポーツドリンク、エナジードリンク、野菜ジュース、黒酢や酵素ドリンク、乳酸飲料など、枚挙にいとまがありませんが、どれも「お砂糖が多くて酸性が強い(歯を溶かしやすい)」という特徴があります。嗜好品や健康食品などの日常的な習慣も、ぜひ一度、私たち歯科医師や歯科衛生士に気軽にご相談ください。

質問:よく噛む事がむし歯予防になるって本当ですか?
回答:本当です!ただ、いくつか注釈が必要ではあります。
よく噛むことで唾液が多く分泌されるため、消化に良いだけでなく、お口の中を洗い流す「自浄作用」が働いてむし歯の予防効果が高まります。また、葉物野菜などの「よく噛まなくてはいけない食べ物」も重要です。噛むこと自体が歯の表面の汚れを落とす効果(清掃効果)を持っています。 一方で、あまり噛まなくてよい加工食品は要注意です。炭水化物が多く含まれています。ネバネバして歯に残りやすい性質も相まって、むし歯になりやすい傾向があります。
特にお子様の場合、「よく噛むこと」にはむし歯予防以上の大きな意味があります。 しっかり噛むことが顎の正常な発育を促し、結果として歯並びが良くなることが知られています。お口の周りの筋肉が鍛えられる事で、歯並びだけでなく、正しい発音や咀嚼(そしゃく)、嚥下(えんげ:飲み込み)にも良い効果が期待できます。子どもの頃からの「噛む力・飲み込む力」の育成は財産です。将来、おじいちゃんおばあちゃんになった時に、体の衰えに伴ってリスクが上がる「オーラルフレイル(お口の機能低下)」や「誤嚥性肺炎」などを予防する大きなアドバンテージになります。毎日の食事から、少しだけ「噛むこと」を意識してみてくださいね。


