はつおい歯科室 べいちょうです。
講習会を受けると、毎回のように感化されてしまう私です。 先日はビムラー矯正の講習を受けて感動したお話をしましたが、今回は「口腔機能」の研修を受けて、また深く感動してきました。
命に関わる「口腔機能」と、8020運動の気づき
「口腔機能低下症」と「口腔機能発達不全症」は、最近特に注目されている分野です。 最近とは言え、私が学生の頃から重要だと教わっていた分野なのですが、これまでは「保険収載がない(保険適用外である)」と言うのが、長年の講師の先生方の悩みでした。
しかしここ数年で、その保険適用の範囲は一気に広がって、かつ重点的に進められています。やはりそれくらいに国民にとって重要で、それが国や省庁に本格的に認められた、という事だと思います。
長きにわたって歯科業界全体で取り組んできた「8020(はちまるにいまる)運動」は、「80歳で20本の歯を残そう」というスローガンでした。長年の結果から分かった事は、「歯列不正(歯並びの悪さ)が歯の喪失に大きく関わる」という事実でした。 簡単に言えば、「歯並びが悪いと、将来歯を失う可能性が高い」という事がはっきりと分かったのです。
そこで、「では、その歯列不正の根本的な原因は何か?」と言う話になり、それが今回の「口腔機能発達不全」の講習会へとつながります。
若い世代にも潜む「舌の筋力低下」
私も日々の診療時に「あれ?」と思った患者さんに検査をしてみると、驚くほど検査数値が低い場合があります。
口腔機能低下症は55歳から保険での算定が可能ですが、先日、まだ40代の患者さんに検査を行ったところ、かなりの低値が出ました。 トレーニングのお話をしつつ、ご本人はそこまで深刻そうにはされていませんでしたが、私たち歯科医師からすると将来の「誤嚥性肺炎」などに注意を払うべき数値です。もしこれが60代の方で同じ数値であれば、すぐに内科へ紹介して検査をしてもらうような、そんな危険な状態でもあります。
口腔機能の低下は、静かに進行する怖いものです。命に係わる筋肉の低下や筋機能の低下、あるいは子どもの頃の発達不全は、その人の一生の人生に大きく関わります。
既に歯列不正がある患者さんには矯正治療が必要になりますが、それでもなかなか理解を得られない事はたくさんあります。「歯並びなんて別に」や「費用が……」という問題もありますし、「乳歯の歯並びが良かったから大丈夫だろう」という誤解や、「矯正は大人になってからやるもの」という思い込みがあったりもします。
そう言う場合に、矯正以外の方法でどうにか多少でも良い影響を与えられないだろうか。それが「小児口腔機能発達不全症」への対応(お口周りのトレーニング)だったりします。 子どもの頃に矯正が出来なくても、トレーニングで同じような良い影響が与えられるとしたら、私たちも頑張りがいがありますよね。
すでに30代、40代の大人の方でも、早期に気が付いてちょっとしたトレーニングのアドバイスをするだけで、その10年後、20年後に困らなくなるかもしれない。そんな色んな事を期待しながら、日々色んな勉強をしています。
水で溺れる感覚と、歯科恐怖症の克服
ただ、ちょっとした問題もあります。それは、歯科医院がまだ社会的に「急性期対応の施設」にとどまっている状態だということです。 いわゆる「痛くなったら行く」「痛くなければ行かない」という場所です。私たち歯科医療従事者側も、今までお口の機能や予防の大切さを十分に啓蒙できていなかったという反省がありつつ、歯科医院の概念を皆さんに考え直してもらう様な、認めてもらうような努力がもっと必要ですね。
先日、極度の歯科恐怖症でお悩みだった方が、「診療の椅子を倒して治療を受けることができない」と相談をしてくださいました。 詳しくお話を伺うと、歯科恐怖症になったそもそもの原因は、椅子を倒して水が口に溜まると「溺れてしまう感覚」になり、パニックになって治療を中断してしまい、それを怒られてしまった経験からだという事でした。
はつおい歯科室の患者さんや、私の勤務医時代の経験でもそうなのですが、治療中に口に水を溜められない方やよくむせてしまう方は、年齢を問わず「舌の力」が弱い傾向にあります。
そんな傾向を踏まえて、ご自宅でできる舌のトレーニングを練習していただき、さらにベッドで少しずつ水をためて寝転ぶ練習をご自身でコツコツと重ねていただきました。 その結果、数ヶ月後にはパニックになることなく、ごく普通に歯科治療を受けられるようになったと嬉しいご報告をいただきました。もちろんご自身の努力が実った成果ですが、きっかけを作れた!と思いました。
舌や口腔周囲は、その殆どが筋肉です。使わなければ弱ってしまいますし、癖でうまく使いにくくなっているなど、色々な要因があります。 しかし、その根本的な原因に気が付いてあげるだけで、治療を受けられる人を増やせたこと。一人の歯科医師として、心の底から嬉しく思っています。
歯科医療には、歯を削る・清掃をする以外にもまだまだ出来ることがたくさんありますね。


