口呼吸の怖さ

口呼吸の怖さ

はつおい歯科室 べいちょうです。

口呼吸って怖いんです!唐突ですみません。
わたくし、息子がおります。彼は慢性の鼻炎で苦しんでいて、鼻声だったり、夜にはいびきをかいたり呼吸が止まったり…、苦しくて口呼吸が続いていました。
歯科医師の視点から、口呼吸は本当に避けた方が良い状態です。
耳鼻咽喉科じびいんこうかで診療を受けて、アデノイドの手術を受ける事になりました。
口呼吸が治るのなら、彼にとって大変ですが、人生の為に乗り越えてほしいところです。

大袈裟じゃない?そう思われるかもしれませんが、父の歯科医師は口呼吸を本当に恐れているんです。
そこで今回は、口呼吸について、
①口呼吸の原因
②鼻呼吸のメリット
③口呼吸の副作用
④口呼吸への対策
○おわかりいただけただろうか…
そんな流れで書いていこうと思います。では、どうぞ!

①口呼吸の原因
口呼吸は、呼吸の苦しさ(息苦しさ)から来る口呼吸、歯並びや骨格による口呼吸、習慣的な問題とに分けられます。
息苦しさ鼻詰まりなど、息苦しさからくる口呼吸は、呼吸器の改善が必要です。風邪などによる一時的な呼吸機能の低下なのか、その他の持続してしまう問題なのか、区別が必要です。風邪が治った時に鼻呼吸に戻るのであれば、問題がないかと思います。
一方、持続してしまう息苦しさは改善する必要があります。その一つが、息子の受けるアデノイド手術です。
口の周りには「扁桃へんとう」と呼ばれる免疫組織があるのですが、この扁桃が肥大してしまう事で空気の通り道を塞いでしまいます。
酸素の不足を感じると、体から「口呼吸へ切り替えろ!」という指令が出ます。走ったりすると「はぁはぁ」と息を切らしますよね。同じことが常態的に生じる事になります。
歯並び骨格…歯並びのズレによって「口が閉じられない」という方もいらっしゃいます。口述します、②口呼吸の副作用を読んで、必要を感じたら、矯正治療の価値があるかと思います。歯科医院でご相談ください。
具体的には、下顎が小さかったり、前歯が前に出てしまっている、唇を閉じようとすると、顎の先に梅干しが出来る場合などもこれに当たります。
習慣…上記の他に、ただ口元がゆるい、という可能性もあります。「口をぽかんと開ける」状態が続いてしまっています。口の周りの筋肉が弱くなっていて緩んでしまっている状態になります。

どの場合でも「意識して口を閉じ、鼻呼吸をする」というトレーニングが必要になります。口は、口輪筋こうりんきんという筋肉で閉じますが、普段から口が開いている(口輪筋を使わない)状態が続くと、筋肉が弱ってしまいます。そうすると、口を閉じる事にも筋トレ・・・が必要になってきます。
私の姉は口を閉じる習慣をつけるために、小学生の頃だったかすごく苦労していたように記憶しています。
また口輪筋は普段意識して使う筋肉でもない為、とにかく自分で意識して使って閉じる、という習慣形成も必要になります。家族から「口閉じて」と頻繁に指摘を受けていて、さぞストレスだったと思いますが、歯科医師になってみて、それでも口は閉じられるようになっていてほしいと思いますね。

②鼻呼吸のメリット
鼻は意外と複雑な構造と大変重要な役割を持っています。
一番分かりやすいのは鼻毛です。フィルターの役割をしていて大きな汚れを取り除いてくれます。
また、鼻の上皮は繊毛上皮せんもうじょうひという細かな毛の生えた細胞です。この「繊毛上皮」もフィルターの役割をしていて、鼻と気管を覆い体を守ってくれています。
細菌やウィルスといったミクロの汚れをキャッチして、くしゃみなどで体の外に追い出してくれます。
また鼻の中では「鼻甲介びこうかい」という仕切りで空気の道が作られています。
鼻には「キーゼルバッハ部位」という血管が集中している部分があります。鼻から入った空気はこのキーゼルバッハ部位を通って、鼻甲介に分けられた狭い隙間を通って、気管を通って肺へ入っていきます。
血管が集中することで空気が温められて、分泌される鼻汁びじゅうで湿度を上げて、繊毛上皮のフィルターを経て、やっと肺へたどり着くわけです。
この「濾過・加湿・加温」が鼻呼吸のメリットです。
そしてこれが出来ない事が口呼吸のデメリット。そして、デメリットはそれだけではないんです。

③口呼吸の副作用
では口呼吸があると、何が起こるのでしょうか?例を挙げながら説明が出来ればと思います。
唇は「皮膚」ですが、口の中は「粘膜」にあたります。
皮膚も粘膜も「上皮」に当たり、体の中と外を隔てる、バリアの役割を持っています。
皮膚と粘膜の違いをざっくりというと、「皮膚は強く、粘膜は弱い」です。

③ー濾過ろか不全
②鼻呼吸のメリットで挙げたように、鼻は優秀なフィルターの役割を持っています。
口呼吸をすることで、フィルターを通らない空気が気管へ入っていきます。埃などの汚れもですし、細菌やウィルスといった、体に感染症を引き起こす微生物も侵入しやすくなります。
「口呼吸は風邪をひきやすい」と言われるのはこの、濾過できない、というのが大きな理由です。
また、鼻の奥の、喉の少し上には「扁桃腺へんとうせん」と呼ばれる免疫組織の集合体(粘膜関連リンパ組織:MALT)があります。
これが、私の息子が手術をして摘出する、「アデノイド(咽頭扁桃いんとうへんとう)」です。息子はアデノイド肥大に伴う睡眠時無呼吸の為にこれを取ります。

③ー2 加湿不全
鼻を覆う繊毛上皮も「鼻粘膜びねんまく」という様に粘膜です。
ですが繊毛上皮は呼吸に特化した、鼻と気管だけに見られる特別な粘膜です。
一方口の粘膜は、鼻の様に湿度を保つ構造を持っていません。口呼吸で乾燥してしまいます。
口は唾液によって湿度を保っていますが、口呼吸で唾液は乾いてしまって役割を果たせません。唾液は、口の粘膜と歯を保護し、再生を促したり細菌から身体を守ってくれる役割をしていますが、それが機能不全になります。また粘膜は乾燥するとダメージを受けてしまいます。口呼吸を続けるだけで歯肉は赤みを帯びて炎症状態となってしまいます。炎症細胞が発生すると近くの骨には吸収が起こります。
・歯と粘膜が傷つく
・歯と粘膜が修復されない
・細菌が増える
・歯肉に炎症が起こる
・骨吸収が起こる

これらが連鎖的に引き起こされます。肺の中でも乾燥によって繊毛上皮の機能低下が起こります。

③ー3 温度調整不全
前述の「キーゼルバッハ部位」は鼻出血の起こりやすい場所としても知られています。それほど血管が集まり、また血管が近いところにあるんです。キーゼルバッハ部位の血管は、鼻汁を出すための水分を運び、血液の温度で外気温を整える、エアコンの役割をしています。
呼吸器は鼻・気管・気管支を通って肺に入り、細気管支から肺胞へと空気が行き渡って、酸素を取り入れて二酸化炭素を吐き出す「呼吸」を行っています。
「自然呼吸の場合、吸入ガスは、気管分岐部でほぼ相対湿度80%まで加湿される。 そして肺胞に到達したときには、温度37℃、相対湿度100%まで達している。」(『自然呼吸と人工呼吸って、なにが違うの?|呼吸の原理』看護roo!)そうです。
肺は非常にデリケートな器官です。気管支、細気管支、肺胞は空気に触れて役割を果たしますが、冷たい空気が一気に肺に入ってしまうとこれらの細胞がダメージを受けたり、機能を十分に発揮できなかったりします。冷たい空気が気管支を刺激して、喘息を引き起こしてしまう場合もあります。

ここまでは鼻呼吸のメリットの裏返しですが、歯科の視点では他にも副作用があります。

③ー4 アデノイド顔貌
「アデノイド顔貌」とは、口呼吸によって形成される特徴的な顔貌を指します。
口呼吸は「特徴的な顔貌」を作り出してしまうんです。
その特徴とは、小さな下顎と突出した唇、横顔では顎と首の境界不明瞭です。
また口の中では、上前歯の突出(出っ歯)下の歯の叢生そうせい(乱杭歯らんくいば)、咬合不正(噛み合わせの悪さ)などが顕著にみられます。
骨格からみても歯並びがズレますので、かみ合わせが悪かったり、噛み合わせる位置が殆どない方もいらっしゃいます。また下顎は顎が小さいので歯の生えるスペースがなく、「叢生そうせい」が目立ちます。
口呼吸を必要とするために口が開いたままになり、口輪筋弛緩しかんが起こって口を閉じる事がさらに難しくなります。また口輪筋弛緩によって前歯の前突(でっ歯)も起こります。
見た目的な歯並びに悩む方も多いですが、歯並びが悪いとむし歯・歯周病に罹りやすく、また歯を失った際にも、歯を繋げる「補綴治療ほてつちりょう」に無理が出るケースもあります。そういった意味でも、食事に困る方も多い印象です。

③ー5 むし歯・歯周病の促進
上記『2 加湿不全』『4 アデノイド顔貌』にも書きましたが、むし歯と歯周病の悪化や、繰り返しの再発が起こりやすくなります。項目でご説明しているせいで分かり難いかもしれませんが、これらは併発していきます。または連鎖的に起こり最終的には慢性的に、継続的に、連鎖的に起こり、口腔内に関しては口呼吸を続ける限り悪化していくと考えられます。
・口呼吸による唾液の乾燥
・歯と歯肉にダメージ
・同時に細菌の繁殖
・歯列不正による清掃不良
・むし歯と歯周病の発生とその悪化

これらが連鎖的に反復して引き起こされます。しかも噛み合わせの悪さは不十分な補綴治療につながる為に、一度悪くなると次々に問題が出てきてしまう場合も少なくありません。

③ー6 口臭
細菌の繁殖と唾液の乾燥、歯肉へのダメージによって口臭も現れやすいです。
過去の記事『口臭の原因は?』もご参照ください。

③ー7 鼾や睡眠時無呼吸症候群
これらは下顎の小ささによって起こされやすいと言われています。いびき睡眠時無呼吸症候群すいみんじむこきゅうしょうこうぐん(SAS)は、喉の奥で気道が塞がれて引き起こされます。顎が小さい事で喉周囲の空間が狭くなる事が原因となります。
また日本人は顎が後退しているという骨格的特徴がある為に、より鼾と睡眠時無呼吸症候群が多いと言われています。

④口呼吸の対策
口呼吸の原因が何か、知ることが大切になります。鼻詰まりが原因でくるしい場合には耳鼻咽喉科に、歯並びや骨格で口が閉じられない、という場合には歯科に受診していただきたいともいます。また習慣的に口を開けてしまう場合もたくさんありますので、その場合には徹底的に筋トレと意識のトレーニングになります。特にマスク生活で、口呼吸が問題視されています。マスクの苦しさから、自分でも気づかない口呼吸が増えている印象です。脱マスク!脱口呼吸!が出来たら嬉しいです。
口を閉じる習慣を身に着けるのも、口輪筋のトレーニングも、簡単ではありませんが、それをするメリットは計り知れないです。方法もご紹介できますので、ぜひご相談ください。特にお子様がテレビやスマホを見ている時に口を開けていたら、すぐに相談いただいた方が良いかもしれません。

○おわかりいただけただろうか…
リプレイは省略しますが、口呼吸は恐いんです。
口呼吸を防ぐメリット、少しでも伝わっていると嬉しいです。
口の難しさは、元通りに戻らない事かと思います。歯科の治療はむし歯を取って違うもので埋めたり、歯ぐきも元通りには戻らないので、表面的に治したつもりになりやすいです。
悲しい事に、見せかけの治療になりやすいんです。
噛めるからまだ大丈夫、そう思っていたら…そんな方にたくさん出会います。大丈夫と言われていたのに…涙を浮かべながらご相談に来て下さる方がたくさんいらっしゃいます。
でも小さい頃に例えばアデノイドの手術を受けていれば、早い段階で口呼吸に矯正が出来ていたら、歯並び矯正が出来ていたら、適切な歯ブラシ指導を受けられていたら、定期的な歯周病の管理を受けられていたら。
歯の悩みは年を経て初めて顕在化します。歯ブラシ指導だけでも出来ていたら…そんな口惜しさを毎日の様に噛みしめて「歯ブラシ頑張りましょう」という一言を皆さんにお伝えしています。
歯ブラシ指導は歯科医療の肝だと思っています。繰り返し繰り返しで、「しつこい!」と思われそうとも考えるのですが、それでも、どうぞよろしくお願い致します。

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